その日の新幹線はかなり混雑していた。自由席は満席だったらしく、通路にも立っている人が多かった。私は5歳の子供を窓側に座らせ、自分は隣でようやく一息ついていた。
すると隣にいたママが、急に話しかけてきた。
「小さい子なら膝でもいいじゃない?」
「うちの子も座りたいのよ」
最初は冗談かと思った。でも彼女は本気だった。
私は「すみません、指定席なので」と断った。すると彼女は不満そうな顔をして、
「でも子供が立ちっぱなしだと可哀想でしょ?」
「具合悪くなったらどうするの?」
と、完全に“譲って当然”という態度になった。
正直、かなりイラッとした。
こっちだって楽したくて指定席を取ったわけじゃない。子供連れで長時間移動するから、お金を払って席を確保していたのだ。
私はついに我慢の限界が来て、はっきり言った。
「じゃあ金払ってください」
彼女は一瞬固まった。
「指定席と自由席の差額払うなら座らせます」
「私はお金払ってここ座ってるんで」
すると今度は泣きそうな顔をして、「同じ子持ちなのに冷たくない?」と言い出した。
でも私はもう折れる気はなかった。
その後、車掌さんが来て事情を説明すると、「指定席券をお持ちでない方は座れません」ときっぱり言ってくれた。
彼女は何も言えなくなり、そのまま黙り込んだ。
周囲の視線は痛かったけど、不思議と後悔はなかった。
あの日思った。
“子供が可哀想”を理由に、他人の権利まで奪っていいわけじゃない。