小学校の卒業式を数日後に控えた夕方、娘の担任から電話がかかってきた。
「卒業式当日なのですが、娘さんともう一人の女の子に、障害のあるクラスメイトの男の子の世話係をお願いしたいんです」
最初、私は意味が分からなかった。
「世話係、ですか?」
担任は当然のように続けた。
「移動の補助や荷物の管理、それから少し汚れる可能性もありますので、汚れても構わない服装で来ていただけると助かります」
卒業式は、娘にとって一生に一度の日だ。
お気に入りの服を着て、友達と写真を撮り、六年間を締めくくる大切な時間のはずだった。
それなのに、なぜ娘だけが裏方のような役目を押しつけられるのか。
私は静かに尋ねた。
「それは学校側の正式な決定ですか? 保護者の同意もなく、児童に介助を任せるのですか?」
すると担任は少し声を低くした。
「嫌なら仕方ありませんが……協力的ではないと、周囲に思われるかもしれませんよ」
その一言で、私は完全に冷静になった。
電話を切ったあと、すぐに娘に確認した。
娘はうつむきながら言った。
「先生に、優しい子だからお願いねって言われた。でも本当は嫌だった。卒業式は普通に出たい」
私は翌朝、学校へ行き、校長先生にすべてを話した。
介助が必要な子を責めたいわけではない。
けれど、その責任を同級生の女の子に押しつけ、断りにくい空気を作るのは明らかにおかしい。
校長先生は顔色を変え、すぐに担任へ確認した。
結果、卒業式当日は学校職員が正式に対応することになり、娘たちは通常通り式に参加できることになった。
卒業式の日、娘はきれいな服で笑っていた。
写真の中の娘は、少し誇らしげだった。
私はその笑顔を見て思った。
優しさとは、黙って我慢することではない。
誰かを助けるために、別の誰かの大切な一日を犠牲にしていい理由にはならない。