友人たちが帰ったあと、私はリビングを片づけながら、ふと違和感を覚えた。
棚の上に置いていた財布の向きが、来客前と少し違っていたのだ。
嫌な予感がして中を確認すると、封筒に入れていた五万円が消えていた。
その日、家に来ていたのは学生時代からの友人三人だけだった。
私はすぐにグループ通話をかけ、できるだけ冷静に言った。
「財布から五万円がなくなってる。泥棒が入った可能性があるから、警察に届けるね」
すると、真っ先に慌てたのはAだった。
「え、警察? そこまでしなくてもよくない?」
その声は明らかに動揺していた。
しばらくして、Aは「心配だから見に行く」と言って、なぜか一人で戻ってきた。
玄関に入るなり、Aは私の制止も聞かず財布を手に取った。
その手にはハンドクリームがべったりついていて、財布の表面に白い跡が残った。
「あ! 財布触っちゃった。ごめんね」
Aはわざとらしく笑った。
「五万円くらいなら、私が貸すよ。だから警察はやめよう?」
私は財布を取り返し、静かに首を振った。
「借りない。盗まれたお金を、友人から借りる理由はないから」
Aの顔色が変わった。
その時、玄関のチャイムが鳴った。
ピンポーン。
立っていたのは、近所の交番の警察官だった。
実は通話を切った直後、私はすでに相談していた。
さらに、部屋にはペット用の見守りカメラがあり、Aが私の財布を開ける場面も映っていた。
警察官が事情を聞き始めると、Aは最初こそ否定した。
けれど映像があると分かった途端、黙り込んだ。
五万円は、Aのバッグの内ポケットから見つかった。
友人だと思って家に招いた相手に裏切られたことは悲しかった。
けれど、泣き寝入りしなかった自分だけは、間違っていなかったと思う。