僕は建設会社「バストラハウス」で働く、ごく普通の会社員だ。
ある日から、政府と共同で進める極秘プロジェクトに参加することになった。
内容は守秘義務があり、家族にも同僚にも話してはいけない。
その日は関係者との打ち合わせを終え、新型車両の試験運用にも立ち会っていた。
「本日から試験走行を開始します。」
担当者の言葉に、僕も思わず胸が高鳴った。
すると、その様子を同じ会社の長沼に見られてしまった。
「最近やたら外で打ち合わせしてるな。」
「その車、お前が買ったのか?」
「仕事のことなので、お答えできません。」
守秘義務だからそう答えただけだった。
しかし長沼は勝手に勘違いした。
「図星だから言えないんだろ。」
数日後。
突然、長沼からビデオ通話がかかってきた。
画面には一台の車。
長沼は笑いながら叫んだ。
「見ろよ!お前の自慢の車、今から事故らせてやる!」
次の瞬間。
急ブレーキ。
激しい衝撃。
画面が大きく揺れた。
僕は血の気が引いた。
「長沼さん……何してるんですか。」
「ははは!慌てても遅い!」
「その車、僕のじゃありません。」
「まだそんな言い訳するのか。」
僕は静かに言った。
「今日から試験運用が始まった、新型救急車です。」
長沼は笑った。
「救急車?救急車は白と赤だろ。」
「朝のニュース、見てませんでしたか。」
政府主導で導入された新型救急車は、従来とは違う配色と新しい構造を採用していた。
車体側面からストレッチャーを積み込める新型モデル。
だから外見だけでは救急車だと気づきにくかった。
だが、知らなかったでは済まされない。
現場にはすぐ警察が到着した。
救急隊員は患者の搬送をやり直すため、別の救急車を手配。
患者の家族は怒りを隠せなかった。
その頃、僕は会社へ戻り、すぐに社長へ報告した。
そして長沼とのビデオ通話をすべて提出した。
そこには、
「事故らせてやる。」
「見てろ。」
と笑いながら追い回す長沼の姿が、はっきり残っていた。
警察で事情聴取を受けた長沼は叫んだ。
「俺が悪いんじゃない!明が自分の車だと否定しなかったからだ!」
社長は冷たく言った。
「守秘義務がある案件を話せるわけがない。」
「勝手に思い込み、危険運転をしたのは君自身だ。」
会社は長沼を一切かばわなかった。
むしろ政府との信頼関係を守るため、捜査へ全面協力した。
結果、長沼は危険運転と業務妨害の責任を問われ、会社からも懲戒解雇。
救急車の修理費。
患者への慰謝料。
救急隊員への損害。
さらに会社からの損害賠償請求まで重なり、背負った負債は一生では返し切れない額になった。
後になって長沼は何度も謝罪してきた。
「ただ、お前と同じ場所まで行きたかっただけなんだ……。」
僕は首を振った。
「人を引きずり下ろしても、自分は上には行けない。」
信頼は積み重ねれば仕事になる。
嫉妬は積み重ねれば、人生を壊す。
長沼が失ったのは、一台の車ではない。
自分の未来そのものだった。