舐めすぎだと思った。
それが、
最初の感想だった。
フリマアプリで見つけた、
黒のレザージャケット。
値段は7,700円。
写真では普通に綺麗だった。
説明文にも、
「目立った傷なし」と書いてある。
だから、
特に疑わなかった。
届くまでは。
袋を開けた瞬間、
私は固まった。
「……は?」
写真に写っていた部分は、
確かに綺麗だった。
でも、
それ以外。
全部終わってた。
裏地はボロボロ。
縫い目は裂けてる。
革は乾燥しきって、
触るだけでポロポロ崩れる。
一瞬で理解した。
——これ、
分かってて隠してる。
見せたい場所だけ撮る。
壊れてる部分は絶対映さない。
写真の角度で、
状態をごまかしてる。
完全に確信犯だった。
正直、
返品しようと思えばできた。
でも、
その時はもう疲れていた。
「まあ……勉強代か」
そう思った。
面倒だった。
やり取りする気力もなかった。
だから、
何も言わずに受取評価した。
悪い評価もつけなかった。
これで終わり。
そのはずだった。
でも——
数分後、
相手からの評価コメントを見た瞬間、
全部変わった。
「あざす(^○^)」
……は?
最初、
意味が分からなかった。
でも、
じわじわ怒りが込み上げてきた。
こいつ、
分かってやってる。
完全に。
こっちが何も言わなかったから、
「チョロかった」
と思ってる。
あの軽さ。
あの顔文字。
その瞬間、
スイッチが入った。
「勉強代」で終わらせるの、
やめた。
返品もしない。
直接揉める気もない。
その代わり——
全部、
見える場所へ出すことにした。
私は写真を撮った。
届いた商品の状態。
崩れた革。
裂けた裏地。
そして、
出品ページの画像。
さらに、
評価コメントのスクショ。
『あざす(^○^)』
全部並べた。
そしてSNSへ投稿した。
特に大げさなことは書かなかった。
「写真に写ってない部分だけボロボロでした」
「評価後にこれ来ました」
それだけ。
最初は、
誰も見ないと思っていた。
でも数時間後。
通知が止まらなくなった。
いいね。
引用。
コメント。
一気に伸びていく。
そして、
同じような被害に遭った人たちが、
次々現れた。
「私もこの人にやられた」
「名前違うけど写真同じ」
「これ常習犯じゃない?」
空気が変わった。
ただの愚痴じゃなくなった。
完全に、
“検証モード”に入った。
出品者の名前は何度も変わっていた。
でも、
商品写真が同じ。
説明文のクセも同じ。
逃げても、
全部繋がっていく。
「また名前変えてる」
「これ同一人物だろ」
コメント欄は、
ほぼ捜査会議だった。
そして私は気づいた。
——あ、
もう逃げ場なくなってる。
最初は、
ただの7,700円だった。
でも本当に腹が立ったのは、
金額じゃない。
“舐められたこと”だった。
だから、
やり方を変えただけ。
直接争わない。
その代わり、
全部、
人が見える場所へ出す。
結果は、
見ての通りだった。
正直、
ここまで広がるとは思わなかった。
でも一つだけ、
はっきり分かった。
こういうのって、
黙って終わらせると、
ずっと続く。
でも、
誰か一人が声を出すと、
一気に崩れる。
それが、
今回一番怖かったことかもしれない。