妊娠が分かったのは、病院の待合室だった。
「おめでとうございます」
医師のその一言を聞いた瞬間、頭が真っ白になった。嬉しさよりも先に、不安が胸に広がっていく。私はスマホを握りしめ、震える指で短いメッセージを打った。
「今日、病院で妊娠していると言われました」
送信ボタンを押したあと、既読がつくのを何度も確認した。しかし、既読はつかないまま時間だけが過ぎていく。
返信はなかった。
夕方になっても、夜になっても、夫からの連絡は一切なかった。帰宅予定の時間を過ぎても、玄関の音はしない。時計の針だけが、やけに大きく響いていた。
「忙しいだけだよね……」
そう自分に言い聞かせても、胸の奥の不安は消えなかった。
やがて深夜近く、玄関の鍵が静かに回った。
「……ただいま」
疲れ切った声だった。
私は立ち上がり、震える声で尋ねた。
「メール、見た?」
夫は一瞬だけ目を伏せ、それから小さく息を吐いた。
「見たよ。でも、どう返していいか分からなくて……」
その言葉に、張りつめていた何かが崩れた気がした。
夫はカバンから小さな箱を取り出した。
「ちゃんと話してから渡そうと思ってた」
中には、簡素だけれど丁寧に選ばれたベビーシューズが入っていた。
「遅くなってごめん。今、実感が追いつかなくて……でも、嬉しい」
その瞬間、堪えていた涙が一気にあふれた。
私は初めて、ひとりじゃなかったのだと知った。
静かな夜の部屋で、小さな未来の気配だけが確かにそこにあった。