私は静かに、しかしはっきりと告げた。
「退職します」
長く続けた会社だったが、限界はとっくに超えていた。原因は明白だった。ロッカーに入れていた私物が、何度も消えていたのだ。最初は気のせいだと思った。だが、化粧品、文房具、私服の一部まで、徐々に“なくなるもの”が増えていった。
上司に相談しても「勘違いじゃない?」で終わる。
誰も守ってくれない職場だった。
退職を決めたあと、私は記録を整理し、内容証明を会社へ送った。
「私物の紛失に関する損害の確認と補償について」
返答はなかった。
数日後、私はさらに一歩踏み込んだ。
「損害賠償請求を正式に行います」
それでも会社は沈黙を続けた。
その対応に、私は最後の手段を選んだ。
「このまま無視するなら、刑事告訴を含めて対応します」
その文面を送った翌日だった。
会社からの返事ではなく、なぜか“社内全体メール”が回ってきた。
件名は──「社内調査の実施について」。
一瞬、目を疑った。
そこには、私の名前とともに“過去半年のロッカー周辺の監視映像の確認を行う”と記されていた。
さらに翌日。
警備会社から直接、連絡が入った。
「映像データに不審な出入りが記録されています。社内の特定人物が関与している可能性があります」
会社はようやく動き出していた。
そして私は、初めて“無視されなかった側”として呼び出しを受けることになる。
その会議室の扉を開けた瞬間、そこには想像していなかった人物の姿があった──。