放課後のリビングで、小学5年生くらいの男の子が母親に食ってかかっていた。
「だってそれは違うじゃん!ちゃんと調べたし!」
母親は最初こそ冷静に返していたが、次第に口数が減り、やがて黙り込んだ。
その瞬間、男の子は勝ち誇ったように声を上げた。
「はい論破!」
ソファの上で軽く跳ねるように喜ぶ息子。その姿を見て、母親は怒鳴ることもなく、ゆっくりと息を吐いた。
そして静かに口を開いた。
「論破ってね、相手を黙らせることじゃないの」
男の子は少し不満そうに眉をひそめる。
母親はまっすぐ息子を見て続けた。
「本当に大事なのは、相手がなぜそう思ったのかを聞いて、それでも違うと思うなら一緒に考えること。勝ち負けじゃないの」
部屋の空気が少しだけ変わった。
「今のあなたは、勝った気になってるだけで、何も理解していないかもしれないよ」
その言葉に、男の子の笑顔が少しずつ消えていく。
母親は最後に、優しく言った。
「論破したいなら、まず相手をちゃんと知る人になりなさい」
男の子は黙ったまま、視線を落とした。
その夜、布団の中で彼は小さくつぶやいた。
「……ちゃんと聞くって、どういうことなんだろう」
このやり取りは後になって、「こんな親になりたい」「めちゃくちゃ刺さる」と静かに広がっていくことになる。