夫が長い間放置していたゴールドのブレスレットは、引き出しの奥で静かに眠っていた。
「どうせ使わないなら」と思った私は、それを質屋へ持ち込んだ。査定額は2万円。高いとは言えないが、当時の生活は苦しく、私は迷わず生活費の足しにしてしまった。
それから数日後の夕方、夫が何気ない様子で私に尋ねてきた。
「あのブレスレット、どこにいった?」
一瞬、時間が止まったように感じた。
「えっ……」
私は言葉を失い、視線をそらしたまま固まってしまう。
「まさか捨てたのか?」
その声には、今まで聞いたことのない低い緊張が混じっていた。
私は正直に打ち明けるしかなかった。
「売ったの。2万円で。生活費にしたくて……」
夫はしばらく黙り込み、そのまま部屋を出ていった。
それから数日後、夫はひとりで質屋と鑑定書を確認しに行った。そして帰宅した夜、静かに言った。
「あれ、祖父の形見だった。金の価値じゃなくて、家の証みたいなものだったんだ」
その言葉に、胸の奥が冷たく沈んだ。
私は初めて、その2万円の重さを思い知った。
なので私は翌日、質屋に事情を説明し、必死に買い戻しの相談を始めた。
金額ではなく、“失ったもの”を取り戻すために。