帰省したその日の夕飯は、どこか不自然な空気に包まれていた。
食卓には刺身、焼き魚、茶碗蒸しが並んでいたが、それらはすべて兄と両親の前だけに置かれていた。兄嫁の前には、皿一つ。中身は残り物の野菜炒めだけだった。
俺は思わず箸を止めた。
「兄嫁さんの刺身と焼き魚と茶碗蒸しは?」
母は悪びれもせずに言った。
「ないよ。ちょうど余り物がそれしかなくてね」
兄は笑いながら皿を指で軽く叩いた。
「野菜だけ食っとけw」
その瞬間、食卓の空気が凍りついた。
兄嫁は何も言わず、ただ静かに箸を置いた。その目には、諦めとも疲れともつかない色が浮かんでいた。
俺は耐えきれず立ち上がり、その場で食材の配分を確認した。冷蔵庫には十分すぎる量の刺身と魚が残っていた。
「これ、最初から分けるつもりなかったんだろ」
そう言うと、兄は鼻で笑ったが、俺はそのまま全員分の皿を並べ替えた。
「同じテーブルに座らせるなら、同じものを出せ」
その一言で場は静まり返った。
翌日、兄嫁は一度実家に戻ることになり、兄は初めて家族から強く注意を受けたという。
そして帰省の空気は、昨日までとはまるで別のものになっていた。