学生時代、私は駅前の小さなレストランでアルバイトをしていた。
週末の夜はいつも混み合い、店の前には順番待ちの客が並ぶ。店長は真面目な人で、常連も一見客も同じように案内することを大切にしていた。
そんなある日、店内が一瞬ざわついた。
テレビで何度も見たことのある芸能人が、数人の取り巻きを連れて入ってきたのだ。私たち店員も驚いたが、席は満席。順番待ちの客も何組もいた。
店長が「恐れ入りますが、順番にご案内しております」と伝えると、その芸能人は不機嫌そうに舌打ちした。
そして、まだ片付いていないテーブルへ勝手に座り込んだ。
「さっさと片付けろよ。こっちは時間ないんだよ」
その言葉に、私は固まった。周囲の客も見ていたが、誰も何も言えない。店長がもう一度注意しても、相手は逆ギレした。
「俺が誰か分かってんの?」
結局、店長は他の客に頭を下げ、場を収めるしかなかった。私は悔しくて、休憩室で泣きそうになった。人気者としてテレビで笑っている姿と、目の前の横柄な態度があまりにも違いすぎた。
数年後、私は社会人になっていた。
ある日、ニュースでその芸能人の名前を見た。内容は、スタッフへの横柄な態度や店での迷惑行為が次々と明るみに出たというものだった。
画面の中で、彼は深々と頭を下げていた。
私は驚かなかった。むしろ、静かに思った。
あの日、私たちが飲み込んだ悔しさは、消えたわけではなかったのだと。
人の本性は、弱い立場の相手にどう接するかで出る。
拍手を浴びる場所だけが、その人の姿ではない。