「今日はタマゴの標本を作ります」
その言葉から、この授業の異常さは始まっていた。教室に立つ先生は穏やかな笑みを浮かべながらも、どこか常識から外れた空気を纏っている。
「タマゴは貴重ですから、もし割ったらケバブが待ってますよ」
冗談のようでいて、妙に本気にも聞こえるその一言に、生徒たちは一瞬静まり返った。
実習の内容はさらに不可解だった。タマゴの殻に小さな穴を開け、注射器で空気を注入することで、中身を外へと押し出すというものだった。図解には「空気」「タマゴ」「中身が出てくる」と簡潔に描かれている。
隣の生徒は小声で呟いた。「……変な学校」
確かにそうだ。普通の理科実験とは思えない工程だが、先生は一切動じない。
「少しずつやらないと割れてしまいますからね」
淡々とした声でそう言いながら、実際に手元のタマゴへと器用に注射器を差し込む。
私はその光景を見つめながら、この学校が“普通”という概念からどれほど離れているのかを改めて実感していた。
静かな教室の中で、タマゴの中身だけが、ゆっくりと現実へ押し出されていく音がしていた