田舎で暮らす母が認知症になった。
兄からそう聞かされ、私は介護施設を探し、母と兄夫婦を連れて見学へ行った。
施設内を案内されている途中、職員さんが私だけを呼び止めた。
「今すぐ警察に行ってください」
意味が分からなかった。
だが別室にいた母は、さっきまでの虚ろな表情ではなく、はっきり私の名前を呼んだ。
認知症なんかじゃなかった。
兄夫婦から暴力を受け、電話も監視され、逃げられず、母は“認知症のふり”をして施設に助けを求めようとしていたのだ。
体には傷。
日記には記録。
警察が動き、兄夫婦の悪事は次々と暴かれた。
母の財産を狙い、事故まで仕組んでいたと知った瞬間、私は兄を家族だと思うのをやめた。
母が私の名前を呼んでくれた。
それだけで、もう十分だった。