“これまでの分”――息子が置いていった64万円に、私は座り込んだ
2026/05/21

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息子は社会人3年目だった。

特別贅沢している様子もない。

普通に働いて、
普通に帰ってきて、
普通に生活している。

今まで、
家にお金を入れてもらったことはなかった。

でも、
そろそろいいかなと思った。

だから本当に軽く言ったんだ。

「4月から、
月1万円でいいから家に入れてくれる?」

負担にならない程度でいい。

“責任を持つ”
って意味で、
そのくらいは…という感覚だった。

息子は、

「うん」

とだけ返した。

だから私は、

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そのまま忘れていた。

そして今日。

何気なくリビングへ行った時だった。

テーブルの上に、
見覚えのない封筒が置いてあった。

「……なにこれ?」

何気なく開けた瞬間、
私は固まった。

中に入っていたのは、
大量のお札だった。

しかも、
明らかに多い。

頭が理解を拒否した。

慌てて数える。

1枚、
2枚——

途中から、
指が震えた。

気づけば、
64万円。

意味が分からなかった。

すると中に、

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小さなメモが入っていた。

『これまでの分』

たったそれだけ。

私は思わず座り込んだ。

“これまでの分”って何?

そんな話、
一度もしたことない。

むしろ、
こっちは何も求めてこなかった。

しばらくして、
息子が帰宅した。

私はすぐ封筒を見せた。

「ねぇ、
これ何?」

すると息子は、
少し照れくさそうに笑った。

「だから、
これまでの分。」

軽い口調だった。

でも、
金額は軽くなかった。

「こんなの頼んでないよ…」

正直、

受け取っていいのか分からなかった。

すると息子は、
少し考えてから言った。

「今までさ、
全部出してもらってたじゃん。」

その瞬間、
色んな記憶が一気によみがえった。

学費。

部活。

塾代。

食費。

修学旅行。

風邪引いた夜。

反抗期。

全部。

こっちは当たり前だと思ってやってきた。

でも息子は、
ちゃんと覚えていた。

「だから、
働けるようになったら、
少しずつ返そうって決めてた。」

涙が出そうになった。

そんなこと、

考えてたんだ。

私は慌てて言った。

「でも、
こんなにいらないよ。」

すると息子は笑った。

「まだ全然足りてないと思うけどね。」

その言い方が、
あまりにも自然で。

余計に胸に刺さった。

夜、
夫にも見せた。

夫は封筒を見た瞬間、
固まった。

「……これ受け取れんだろ。」

震えながら言った。

「なんか怖いわ……
手切れ金みたいで。」

冗談っぽく笑っていたけど、
少し分かる気もした。

それくらい、

重い金額だった。

結局、
そのまま使うことはできなかった。

とりあえず、
息子名義で貯金することにした。

きっといつか、
この子のために使う日が来る。

でも最後まで、
64万円という数字の意味だけは分からなかった。

細かく計算したのか。

ただの区切りなのか。

聞いても、
息子は笑ってごまかした。

「なんとなく。」

でも私は思う。

その“なんとなく”の裏で、
この子は何年も考えていたんだろうって。

正直、
誇らしかった。

そして少しだけ、
寂しかった。

ああ、
この子。

ちゃんと大人になったんだなって。

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