「98円のパンが9円になってた」→店員の一言で空気が変わった話
2026/05/25

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「98円のパンが、9円になっていた。」

一瞬、
目がバグったのかと思った。

私は値札を見直した。

棚を見た。

もう一回値札を見た。

……やっぱり9円。

某スーパーのパン売り場だった。

期限が近いパンに、
値引きシールが貼られている。

よくある光景。

でもその日は違った。

20%引きシールが、
なぜか二重に重なっているように見える。

しかも表示は、
「9円」。

「いや、これは……」

私は近くにいた店員さんへ声をかけた。

「すみません、これ、値段合ってますか?」

店員さんは値札を見るなり、

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眉をひそめた。

そして、
パンと値札を交互に見たあと、
言った。

「……これは売れません」

え?

私は一瞬固まった。

いや、
私はただ確認しただけだ。

むしろ、
正直に聞いた側だ。

「えっと、間違いなら戻しますけど……」

そう言いかけた瞬間。

店員さんは、
少し強めの口調で被せてきた。

「値札ミスなので無効です。売れません」

その言い方が、
妙に刺さった。

ミスなのは店側なのに、
なぜか私が悪いことをしている空気になっている。

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周りには買い物客が何人かいて、
誰かがチラッとこちらを見た。

私は一度、
引き下がろうとした。

9円のパンで揉めるのも嫌だし、
私だって忙しい。

「わかりました。じゃあ戻します」

そう言って、
棚へ戻そうとした。

その時だった。

店員さんが、
ため息混じりに言った。

「……そこまでして欲しいんですか?」

空気が、
一瞬止まった。

その言葉は、
値段の話じゃなかった。

“9円に必死なんですね”

“そこまで執着する?”

“なんか必死すぎません?”

そういう、
見下すニュアンスが混ざっていた。

私は、
棚へ戻しかけた手を止めた。

……え?

私、
今“乞食扱い”された?

胸の奥が、
スッと冷えた。

同時に、
静かに火がついた。

私は感情をぶつけず、
声の温度だけ落として言った。

「すみません。今の言い方、どういう意味ですか?」

店員さん、
一瞬目を泳がせた。

でもすぐに、
逃げ道みたいな言葉を出した。

「いや、そういうつもりじゃ……。とにかく売れませんので」

——三回目。

拒否。

押し切り。

そして人格を下げる一言。

私はもう、
“パンを買うかどうか”
の話をしていなかった。

“客に向けて言っていい言葉か”
の話をしていた。

私は静かに言った。

「責任者の方、お願いできますか。店長さんで」

自分でも驚くほど、
落ち着いた声が出た。

店員さんは露骨に嫌そうな顔をしたあと、
奥へ引っ込んだ。

待っている間、
私はパンをカゴへ入れたまま立っていた。

周囲の視線が、

また少し集まる。

でも私は目を逸らさなかった。

恥ずかしくない。

私は確認した。

侮辱された。

だから手順を踏む。

それだけだ。

しばらくして、
店長さんが来た。

胸の名札。

落ち着いた雰囲気。

店員さんが、
小声で事情を説明している。

店長さんは値札を見て、
パンを見て、
すぐ状況を理解したようだった。

そして、
私へ丁寧に頭を下げた。

「ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ございません」

そのあと、
はっきりと言った。

「こちら、表示価格で販売いたします」

その一言一句が、
プロだった。

“謝る”だけじゃない。

“どう対応するか”
が明確だった。

私は確認するように、
淡々と伝えた。

「値段のことより、先ほどの『そこまでして欲しいんですか?』という言い方が気になりました」

その瞬間、
店長さんの表情が変わった。

笑顔が消え、
目が真っ直ぐになった。

「……その発言は不適切です」

店長さんは、
店員さんの方を向いた。

「お客様に対して言ってはいけません」

店員さんは黙ったまま、

小さく頭を下げた。

さっきまでの強い口調は、
完全に消えていた。

店長さんは続けた。

「値札ミスがあった時こそ、まずこちらが謝るべきです」

「お客様は確認してくださっただけです。それを責めるような口調にしたこと、反省してください」

その場の空気が、
完全に変わった。

店長さんはさらに説明した。

「値引きシールが重なったことと、設定ミスが重なった可能性があります。こちらの管理不足です」

「今日は表示価格で販売します。今後は再発防止を徹底します」

私はそこで、
初めて息を吐いた。

レジでは、
パンは本当に9円で通った。

でも、

“安く買えた”
という感覚じゃなかった。

“ちゃんと戻った”
という感覚だった。

私は店長さんへ軽く会釈して、
店を出た。

外の空気は少し冷たくて、
頭が冴えた。

たった9円。

でも、
もしあの言葉を飲み込んでいたら、
私はきっとずっとモヤモヤしていたと思う。

客として、
普通に確認しただけ。

それで見下されるなら、

黙って終わらせない。

そして何より、
私は思った。

こういう店に、
私はお金を落としたい。

安さじゃない。

“人を雑に扱わない店”に。

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