
「離婚しましょう」
その一言を言った時、不思議と気持ちは落ち着いていた。
もう限界だったから。
5人の子どもを一人で育てているような生活だった。
熱を出しても、夜泣きしても、学校のことも、全部私。
それでも夫は、
「俺は仕事で疲れてる」
それだけ。
ある日、子どもたちの前で言った。
「こいつは金のかかる厄介者だ」
その瞬間、全部終わった。
この人と一緒にいる方が、子どもに悪い。
そう思った。
離婚を切り出したら、案の定だった。
机を叩いて怒鳴った。
「お前が言い出したんだからな!」
「子ども5人は全部お前が見ろ!」
「財産も養育費も一円も渡さん!」
……は?
でも、その時は何も言わなかった。
もう話す価値もなかったから。
そのまま離婚。
子どもたちを連れて家を出た。
夫は最後まで言っていた。
「どうせすぐ戻ってくる」
でも——
戻るつもりなんて最初からなかった。
数週間後。
私たちは引っ越した。
庭付きの、広い家に。
その瞬間だった。
スマホが鳴り始めた。
止まらない。
ずっと。
いわゆる鬼電。
さっきまで「一円も渡さない」と言っていた人が、
今度は必死にかけてくる。
仕方なく一度だけ出た。
「おい、どういうことだ?」
「なんであんな家に住んでる?」
「誰の金だ?男か?」
……やっと気づいたんだ、って思った。
私は普通に答えた。
「私の資産だけど?」
沈黙。
元夫、完全に止まった。
実はあの家、祖父の遺産だった。
しかも、私個人名義。
結婚しても、一切触れられない形で残されていた。
私はずっと黙っていただけ。
必要がなかったから。
でも結果的に、それで分かった。
この人は、何も見てなかったんだって。
さらに知らなかったと思う。
私がずっと在宅で仕事して、貯金してたことも。
子ども5人育てながら、ちゃんと準備してたことも。
元夫はずっと思ってたはず。
「こいつは一人じゃ何もできない」
でも実際は逆だった。
何も見えてなかったのは、あっちの方。
その後も連絡は続いた。
「子どもに会わせろ」
「やり直そう」
でも全部分かりやすかった。
目的は一つ。
家と金。
だから全部、記録に残した。
必要な手続きも進めた。
子どもたちは、家を出てから明らかに変わった。
よく笑うようになった。
それが答えだった。
最後に思った。
「一円も渡さない」って言ってた人が、
今さら何を言ってるんだろうって。
気づくの、遅すぎ。
もう全部終わってる。
こっちは、とっくに前に進んでるから。