離婚調停の日。
夫は席に着くなり、深いため息をついて私に言いました。
「今日はちゃんと話そう。俺は絶対に感情的にならないから。」
私は思わず苦笑いしました。
今まで何度も義母のことを話そうとしました。
でも、そのたびに夫は最後まで話を聞かず、
「母さんがそんなことするわけない!」
そう怒鳴って終わりでした。
だから私は静かに言いました。
「義実家の話をすると、あなたはいつも怒るから話したくない。」
すると夫は胸を張って言いました。
「今日は違う。最後まで聞く。約束する。」
弁護士さんも調停員さんも黙って見守っています。
私は覚悟を決めて口を開きました。
「私が、お義母さんに嫁いびりをされた時――」
そこまで言った瞬間でした。
夫が勢いよく立ち上がり、
「だから!母さんがそんなことすると思ってるのか!?あぁ!?」
部屋中に怒鳴り声が響きました。
……まだ三秒も経っていませんでした。
私は思わず笑いそうになりました。
弁護士さんは眼鏡を外し、静かにため息をつきました。
義父は立ち上がろうとしたまま固まり、義母は青ざめながら、
「○○、座りなさい!」
と慌てて止めています。
それでも夫は止まりません。
「母さんはお前のために料理も作ってくれた!」
「世話だってしてくれた!」
「感謝したことあるのか!」
私はゆっくり夫を見て言いました。
「ありがとうって……私だけ夕飯が出なかった日も?」
夫は黙りました。
私は続けました。
「私だけ食卓に座っても、お茶しか置かれなかったよね。」
「義母に肩を小突かれても、『触っただけ』って笑われたよね。」
「三時間も私の実家の悪口を聞かされたこともあった。」
夫は首を横に振り、
「悪く受け取るお前が悪い!」
と叫びました。
その瞬間、弁護士さんが静かに口を開きました。
「もう十分です。」
部屋が静まり返ります。
「奥様がおっしゃっていた、『義実家の話になるとご主人が感情的になり、話し合いにならない』という主張は、皆さんにも十分伝わったと思います。」
夫は周囲を見回し、
「え?何?どういうこと?」
という顔をしていました。
義母は目を伏せ、義父は大きくため息をついています。
私は夫に向かって笑顔で言いました。
「ほらね。怒らないって約束したのに、三秒も持たなかった。」
さらに私は尋ねました。
「ところで、どうして離婚の話し合いにお義父さんとお義母さんを連れてきたの?」
夫は当たり前のように答えました。
「離婚は家族の問題だからだ。」
私は静かに返しました。
「そうだね。あなたにとっての家族は、最後までご両親だったんだね。」
その一言で、夫は何も言えなくなりました。
最終的に離婚は成立し、慰謝料も支払われました。
帰り道、弁護士さんが小さく笑いながら言いました。
「百回説明するより、一回見てもらうほうが早いこともあるんですね。」
あの日、私が勝った理由は、言い返したからではありません。
夫自身が、自分の本性をみんなの前で証明してくれたからでした。