数年前のこと。出張先のファミレスで食事をしていた時、熟年の男女がいちゃつきながら入ってきた。いい年をして…と呆れていたが、よく見るとそれは当時還暦近かった母だった。相手は見知らぬ男だ。
気になって席を移り、二人の会話を聞くと衝撃の内容だった。父が定年したら離婚し、退職金を全て手に入れ、家も売ってその男と暮らすというのだ。母は「20年騙してきたけど、私は真実の愛に目覚めたの」とまで言っていた。
私は混乱したままホテルに戻り、妻に電話で事情を話した。すると妻は実家で同居している長男の嫁に確認してくれた。母は「友達と旅行に行く」と言って三日間家を空けていたという。どうやら不倫旅行らしい。
翌日、出張が終わると妻と子供を連れて実家へ向かった。母は不在だったため、兄夫婦と話すと、兄嫁も以前から母の不倫を疑っていたという。そこで興信所に調査を依頼した。すると、母がその男のマンションに通い詰めている証拠が次々と出てきた。
私たちは父にすべてを伝えた。父は激怒したが、定年の日まで黙っていろと言った。
そして父の定年当日、兄弟家族が実家に集まった。何も知らない母が帰宅すると、突然「離婚したい。この家も売って半分もらう」と言い出した。
だが父は冷静に言った。
「この家の名義は長男だ。お前は手に入れられない」
さらに父は不倫の証拠を突きつけ、弁護士を通じて慰謝料請求することを告げた。そして家の鍵も変え、母を家から追い出した。
その後、母は不倫相手と暮らしたが、慰謝料の支払いで生活は苦しくなった。私たち子供にも助けを求めてきたが、誰も応じなかった。
最近、その不倫相手が亡くなり、母は長男の家に無断で入り込んで警察沙汰になったという。
もしあの出張でファミレスに入らなければ、母の計画に私たち家族は気づかなかったかもしれない。
だが、私たちはもう母を助けるつもりはない。
家族を裏切ったのは、母のほうだったのだから。