「社長の俺に逆らう気か?」
夫の翔は、父の会社で人事部長をしているだけなのに、いつの間にか自分が次期社長だと思い込んでいた。
しかも、営業部の新田さんという愛人まで作り、「この会社は俺と彼女のものになる」と堂々と言い出した。
愛人も愛人で、「奥さん、邪魔だからクビにしちゃえば?」と笑っていたらしい。
私は怒るより先に、呆れてしまった。
そもそも私は、父の指示で各部署を回り、次期経営陣として現場を学んでいる最中だった。翔が「部署をたらい回しにされている無能」と笑っていた仕事こそ、役員になるための通過儀礼だったのだ。
数日後、父は翔を呼び出した。
「お前らがクビだ」
翔は青ざめた。次期社長だと信じていた言葉は、父が社員全員にかけていた「これからの会社を頼む」という激励にすぎなかった。
さらに調査で、翔が愛人に不当に高い評価をつけ、賞与まで優遇していたことが判明。人事部長の立場を使った完全な職権乱用だった。
新田さんも、社長夫人になるつもりで社内に嘘を広め、周囲に威圧的な態度を取っていたため処分対象に。
二人はそろって会社を追われた。
その後、翔には採用不正まで発覚し、刑事告訴。愛人には慰謝料請求。
私は取締役に就任した。
父が築いた会社を守るために、これからは私が前に立つ。
あの時、夫に言われた言葉を今でも思い出す。
「社長の俺に逆らう気か?」
ええ、逆らって正解だった。
本当の社長が誰を見るか、最後に思い知ったのは彼の方だった。