私とAは、小さい頃から一緒に育った幼なじみでした。
家族ぐるみの付き合いで、お互い何かあれば助け合う関係。
母が倒れた時も、Aは毎日のように実家へご飯を届けてくれました。
だから私も、Aの子どもたちを本当の甥や姪のように可愛がっていました。
けれど、一年前に私が引っ越してから少しずつ様子がおかしくなりました。
「仕事休めばいいじゃん。」
「うちの子たち泊めてよ。」
「帰りは送り届けてね。」
「お小遣いもあげて。」
断るたびに、
「独身だから分からないんだ。」
「うちの苦労を少しは手伝って。」
そう責められるようになりました。
私は仕事が忙しく、本当に休めなかっただけです。
それでも理解してもらえませんでした。
そして、あの日。
会社で仕事をしているとAから電話がありました。
「今、マンションの下にいるよ。」
「子どもたち置いていくね。」
「旦那とドライブ行ってくる。」
そう言うと、一方的に電話は切れました。
慌ててかけ直しましたが、すでに着信拒否。
血の気が引きました。
事情を上司へ説明すると、
「すぐ行け。」
その一言で私は会社を飛び出しました。
マンションへ着くと、本当に四人の子どもがいました。
日陰とはいえ外は三十五度を超える猛暑。
一番下の子は泣き続け、長男は必死に抱きしめながら涙をこらえていました。
次男は弟たちを笑わせようと無理に明るく振る舞っていました。
私を見るなり四人とも泣き崩れました。
「ごめんなさい……。」
謝る必要なんて、どこにもないのに。
私は急いで部屋へ連れて行き、水を飲ませ、冷房をつけました。
夜十一時。
ようやくAと連絡がつきました。
私は怒りを抑えながら言いました。
「子どもを殺す気なの?」
「明日の朝、迎えに来て。」
すると電話の向こうで笑い声がしました。
「やっぱり預かれるじゃん。」
「嘘つき♪」
「明日から旦那と旅行だからよろしく。」
私は言葉を失いました。
「この子たちも家族でしょ!」
そう言っても、
「じゃあ旅費三十万円払ってくれる?」
と笑うだけでした。
その夜、長男が小さな声で言いました。
「新しいパパ、怒鳴るんだ。」
「ママも昔みたいじゃない。」
「家に帰りたくない……。」
私は胸が締めつけられました。
翌朝、事情を説明すると、上司は私の家まで来てくれました。
そして子どもたちも一緒に会社へ連れて行ってくれたのです。
朝礼で上司は社員全員に頭を下げました。
「彼女は今、小さな命四人を守っています。」
「迷惑をかけることもあるかもしれません。でも助けられる人は助けてあげてください。」
その言葉に、私は涙が止まりませんでした。
社員のみんなは誰一人嫌な顔をせず、子どもたちと遊び、お昼には大きなエビフライまでごちそうしてくれました。
長男も次男も少しずつ笑顔を取り戻し、帰る前には社員一人ひとりへ手紙を書いていました。
一週間後。
ようやくAから連絡がありました。
「今日連れてきて。」
謝罪も、お礼もありませんでした。
子どもたちは帰りたくないと私にしがみつきました。
それでも私は約束だからと送り届けました。
玄関先でAは子どもたちに怒鳴り、無理やり家へ引きずり込みました。
その奥から聞こえたのは、乾いた平手打ちの音。
私はすぐ警察へ通報しました。
ところが、Aの夫は警察に向かって言ったのです。
「この人が勝手に子どもを返さないだけです。」
「母親気分を味わいたかったんでしょう。」
怯えた子どもたちは、
「パパもママも何もしてません。」
そう言わされていました。
結局、その場では私の話は信じてもらえず、私は一晩事情聴取を受けることになりました。
翌日、Aから電話がありました。
「昨日、面白かったね。」
「また預ける時は連絡するね。」
その瞬間、ようやく分かりました。
私が知っている幼なじみのAは、もうどこにもいない。
今残っているのは、自分の都合のためなら子どもさえ利用し、助けてくれた友人まで平気で悪者にする人でした。
それでも、私が今でも忘れられないのはAではありません。
猛暑の中で弟を抱きしめながら、
「ごめんなさい。」
と泣いていた長男の姿です。
あの子たちが、いつか心から笑える日が来ることだけを、今でも願っています。