『預かってくれないなら、コインロッカーに置いてでも行く』――友人がそこまでして参加したかった理由を聞いて、私は言葉を失いました。
2026/06/23

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ある日、十歳年下の友人から久しぶりに電話がかかってきました。

「お願いがあるの。」

その声は切羽詰まっていました。

話を聞くと、一歳にもならない赤ちゃんを二日間預かってほしいと言うのです。

私は驚きました。

結婚してからはお互い別の県に住み、連絡を取るのは年賀状と半年に一度くらい。

そんな私に、なぜ二日間も赤ちゃんを預けようと思ったのでしょう。

理由を聞くと、

「実家も無理。」

「義実家も忙しい。」

「頼れる人が誰もいない。」

だから私しかいないと言います。

でも、私にも小学一年生を筆頭に三人の子どもがいます。

家の中は毎日戦場です。

一歳の赤ちゃんを二日間預かって、もし転んだり熱を出したりしたら責任は取れません。

私は申し訳ないと思いながら断りました。

ところが翌日も電話。

その翌日も電話。

「お願い。」

「本当にあなたしかいないの。」

毎日のように頼まれ続けました。

そしてある日、友人は泣きながらこう言ったのです。

「どうしても無理なら……コインロッカーに置いてでも行く。

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私は背筋が凍りました。

「そこまでして行かなきゃいけない用事って何なの?」

すると友人はしばらく黙り込み、小さな声で答えました。

「同人誌の即売会……。」

思わず聞き返しました。

「え?」

「今年作った新刊を売るの。」

「今年しか意味がないの。」

「仲間はみんな参加するのに、私だけ諦めたくない。」

私は言葉を失いました。

趣味が悪いとは思いません。

好きなことを続けるのも素敵だと思います。

でも、一歳の赤ちゃんを他人に二日間預けようとしたり、コインロッカーという言葉まで出てくるほど優先することなのか、私には理解できませんでした。

数日後。

今度は友人のご主人から電話がありました。

「妻が頼れるのは、あなたしかいないんです。」

最初は丁寧でした。

でも話はどんどんおかしな方向へ進みます。

「妻は育児と創作を両立して、本当によく頑張っています。」

「だから今回だけ力を貸してください。」

私は提案しました。

「ベビーシッターさんや一時保育は利用できませんか?」

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すると即答でした。

「妻は知らない人には預けたくないんです。」

私は思わず苦笑しました。

「知らない人には預けたくない。」

その子を、何年も会っていない私には預けられるのでしょうか。

さらに、ご主人は信じられないことを言いました。

「普通の主婦の方なら、妻のような立場を羨ましく思う気持ちは分かります。」

「でも、そこを何とか。」

その瞬間、私の中で何かが切れました。

私は静かに言いました。

「お断りします。」

「もし大切なお子さんを預けるなら、私ではなく、ご両親や専門の施設を頼ってください。」

「それができないなら、イベントを諦めるしかありません。」

そう伝えて電話を切りました。

その後もしばらく着信は続きましたが、私は出ませんでした。

当日は念のため家族で外出し、一日家を空けました。

結局、友人がイベントへ行けたのかどうかは分かりません。

それ以来、連絡も来なくなりました。

少し寂しい気持ちもあります。

でも、一つだけ確信しています。

本当に守るべきだったのは、締め切りでも即売会でもありません。

誰かに押しつけようとした、一歳になったばかりの我が子だったのではないでしょうか。

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