「そのミニカー、うちの子の物なんですが…」
そう言った瞬間、隣の母親は即座に返した。
「は?うちの子が拾っただけですけど?盗んでませんよ」
亡くなった息子が大切にしていたミニカーが、玄関前から忽然と消えた。お願いの貼り紙も出したのに、相手は頑なに「拾っただけ」と言い張る。怒りと悲しみが交錯する中、私は黙ってミニカーを手に取り、そっと裏返した。
そこに書かれていた“ある文字”を見た瞬間――
強気に見えた彼女の表情が、一瞬にして固まった。言葉を失い、息が止まったように見える。
私はただ静かに、しかし確かな声で言った。
「これ、あなたのお子さんの物じゃないですね」
周囲の空気が変わった。隣の母親の顔は青ざめ、手にしたミニカーをどう扱うか迷っているのがはっきりと分かる。ここまで強気だった態度は、嘘のように消え去っていた。
あの一瞬の沈黙。私の胸の中には、やっと少しだけ平穏が戻るのを感じた。亡き息子の思い出を守るため、私はただ事実を示しただけだった――それで十分だったのだ。