不採用を告げられた私は、社長と話すためにエレベーターの全階ボタンを押した。
2026/06/14

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エレベーターの扉が閉まる直前、私は滑り込んだ。

社長は驚いた顔でこちらを見る。

当然だった。

つい数分前に不採用を言い渡された応募者が、突然追いかけてきたのだから。

私は深呼吸しながら言った。

「3分だけください」

社長は眉をひそめた。

「もう結果は伝えましたよ」

普通ならそこで終わりだった。

でも私には失うものがなかった。

私は無言で一番上の階のボタンを押した。

そしてその下の階も。

さらにその下の階も。

気付けば、全部の階のボタンが光っていた。

社長は思わず吹き出した。

「君、何をしてるんだ?」

私は正直に答えた。

「社長と話す時間を作っています」

呆れられても仕方なかった。

それでも私は話し始めた。

「私は有名大学を出ていません」

「資格もありません」

「インターン経験もありません」

社長は黙って聞いていた。

私は続けた。

「でも、誰よりも働けます」

「誰よりも諦めが悪いです」

「だから今日だけは帰りたくなかったんです」

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エレベーターは一階止まるたびに扉が開き、閉まり、また動く。

その数十秒が私には命綱だった。

私は必死に話し続けた。

学生時代のアルバイト。

失敗した経験。

悔しかったこと。

なぜこの会社に入りたいのか。

社長は一言も口を挟まなかった。

そして最後の階に到着した時だった。

社長が静かに言った。

「普通なら迷惑だよ」

私は頭を下げた。

「分かっています」

「でも普通に面接を受けていたら、私は他の応募者に勝てません」

社長は少しだけ笑った。

「なるほどね」

それだけ言ってエレベーターを降りていった。

私は終わったと思った。

やり切った。

恥も外聞も捨てた。

だから後悔はなかった。

数日後。

知らない番号から電話がかかってきた。

恐る恐る出ると、

「先日の件ですが、もう一度面接に来ていただけますか?」

と聞こえた。

一瞬、意味が分からなかった。

後日、採用が決まった時に社長はこう言った。

「能力だけなら上の人はたくさんいた」

「でも、あの日エレベーターに飛び込んだのは君だけだった」

私はその言葉を今でも忘れられない。

コネもない。

学歴もない。

特別な才能もない。

そんな人間に残された武器は多くない。

でも一つだけある。

恥をかく覚悟だ。

あの日、全ての階のボタンを押した私は、人生で一番格好悪かった。

そして同時に、人生で一番本気だった。

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