結婚して三年目くらいからだった。
義父母が、
露骨に「子供はまだか」と言い始めたのは。
最初は軽かった。
「早く孫の顔見たいな〜」
でも徐々に、
それは“圧力”に変わっていった。
義実家へ行けば、
「女として欠陥なんじゃない?」
「病院行ったら?」
「嫁の役目も果たせないの?」
そんな言葉を平然と浴びせられる。
夫は隣にいた。
でも何も言わなかった。
笑って誤魔化すだけ。
私は一人で不妊検査へ行った。
結果は――異常なし。
医師は静かに言った。
「奥様に問題はありません」
「ご主人側も検査を」
その後、
夫の検査結果も出た。
原因は、
夫だった。
私はしばらく言えなかった。
義父母に知られたら、
夫はきっと壊れる。
そう思ったから。
でも現実は違った。
夫は、
私を守らない。
義父母に責められても、
ただ俯いているだけ。
私だけが悪者。
私だけが“産めない女”。
その生活が続くうちに、
愛情もどんどん消えていった。
そしてある日、
私は決めた。
――離婚しよう。
義父母は大喜びだった。
「これで夫ちゃんも子供産める女と再婚できる!」
「やっと厄介払いできる!」
市役所へ行く車の中ですら、
義母はニヤニヤしていた。
離婚届を提出。
受理された瞬間、
義父が満足そうに笑った。
「これでうちの血も絶えずに済む」
その時だった。
私は鞄から封筒を取り出した。
そして、
検査結果を机に置いた。
義母が眉をひそめる。
「なによこれ」
私は静かに言った。
「不妊の原因です」
義父母が紙を見る。
数秒後。
二人の顔色が一気に変わった。
“男性側不妊”
その文字を見た瞬間だった。
義母の口が震える。
「……え?」
私は笑いながら言った。
「“欠陥”なの、私じゃなくてあなたの息子ですよ」
空気が凍った。
義父は顔を真っ赤にして立ち上がった。
殴りかかりそうな勢いだった。
でも市役所。
周囲の目もある。
結局、
何もできず震えていた。
私は最後に小さく呟いた。
「ばーーーか」
当時の私は、
本当に性格悪かったと思う。
でも、
めちゃくちゃスッキリした。
それから数年。
元夫とは完全に縁を切った……
はずだった。
でもある日、
偶然再会した。
驚いたのは、
昔と別人みたいに穏やかだったこと。
話を聞くうちに、
私はある違和感を覚えた。
あまりにも、
“親を怖がりすぎている”。
だから私は、
カウンセリングを勧めた。
そこで発覚した。
元夫は幼少期、
壮絶な虐待を受けていた。
言うことを聞かなければ、
置き去り。
警察に保護されたこともあったらしい。
「逆らったら捨てられる」
その恐怖が、
大人になっても消えていなかった。
だから義父母に逆らえなかった。
私を守れなかった。
でもカウンセリングを続けるうちに、
元夫は変わっていった。
少しずつ、
自分の意見を言えるようになった。
そしてある日。
彼は義父母に向かって、
初めてこう言った。
「もう二度と関わらない」
絶縁だった。
その足で、
彼は私のところへ来た。
そして頭を下げた。
「あの時、本当にごめん」
「今度こそ、ちゃんと君を守りたい」
さらに、
震える声で続けた。
「もう一度、結婚してください」
私は泣いてしまった。
怒りも、
憎しみも、
全部消えたわけじゃない。
でも、
今の彼なら信じたいと思った。
そして先週。
私たちは、
もう一度夫婦になった。
人生って、
本当に何が起きるか分からない。