同棲を始めてから、彼女と私はお互いに毎月8万円ずつ出し合って貯金をしていました。
目的は将来の旅行や引っ越し、いざという時のための「二人の財産」。
しかし、付き合い始めて1年ちょっとで、私たちは別れることになった。
正直、寂しさよりも「貯金どうなるんだろう…」という不安のほうが大きかった。
彼女は私の目の前で財布から一枚の封筒を取り出した。
「これ、あなたの分ね」
中を見て、思わず息を呑んだ。53万円――まさに私が出した分の全額だった。
「え…?本当に?」
彼女はにっこり笑い、言った。
「二人で頑張って貯めたお金だから、公平に返すのが当たり前でしょ」
私は驚きと同時に、胸の奥がじんわり温かくなった。
こんな別れ方は初めてだ。争ったり取り合ったりすることもなく、ただ「公平」に。そして、私の努力をきちんと認めてくれた瞬間だった。
その日、私は彼女のことを少し尊敬した。
貯金という「数字」だけではなく、人としての誠実さを教えてもらった気がした。
金額は大きくなくても、この53万円以上の価値を私は手に入れた気がした。
お互いの未来を応援しつつ、円満に別れられる――そんな関係も、世の中にはあるんだと痛感した日だった。