
ドアが「プシュー」と閉まった瞬間、いきなり叫んだ。
「おい!何してんだよ!俺の荷物触んな!泥棒!」
は?車内の視線が一斉に刺さる。
俺は母の車いすを押して通路で立ち往生。後ろには特大荷物スペースに置かれた黒いスーツケース。
「ここ、特大荷物スペース付きの席で予約してます。母の車いす置く場所ですが……あんたのですか?」
相手、急に被害者顔。
「いや、知らなかった……みんな置いてるし……」
「ふざけんな。どけろよ。」
そいつ、ニヤッとして2万円払えとか抜かす。
……当たり屋か。
俺、呼び出しボタン押す。焦ったそいつ、スーツケースを持ち逃げしようとする。
「今それ持って逃げたら、お前が盗んでる側だぞ。」
車掌が来て状況確認。
「特大荷物スペースは予約者専用です。持ち主の方、いらっしゃいますか?」
そいつ、食い気味に「俺です!」
でもタグや中身を確認されると黙る。別の乗務員にスーツケースを移動される。
放送が流れ、「黒いスーツケースをお預かりしています。持ち主の方は――」
その瞬間、息切らしたサラリーマンが現れ、
「これ僕のです!トイレ行って戻ったら無くなってて、タグもあります!」
車内、シーン。
さっきまで騒いでた奴、顔色真っ青。車掌の声も冷たくなる。
「なぜ他人の荷物を自分のものと申告したのか説明してください。」
そいつ、しどろもどろ。
「誰もいないと思って……」
「持ってく気だったんだろ。2万も要求して。」
視線は冷たく、誰も味方しない。
母の車いすは無事固定。列車が加速する中、俺はそいつに小声で言った。
「次からは他人ナメて得しようとか思うな。」