高速道路の路肩に、古びたスーツケースが置かれていた。
ただの不法投棄かと思った瞬間、その隣で小さな影が動いた。
目隠しをされた秋田犬の子犬だった。
ケースには「うるさい」とだけ書かれた紙。
命を捨てる理由にしては、あまりにも冷たい言葉だった。
助けようとしても、子犬はスーツケースから離れない。
中にあったのは汚れた毛布と空のボールだけ。
それでもその子にとっては、置き去りにされた世界で最後に残った“家族の匂い”だったのかもしれない。
保護された子犬は、やがて事故で兄を亡くし、言葉を失った女の子と出会う。
誰にも心を開かなかった犬が、その子の前でだけ顔を上げた。
そして11ヶ月ぶりに、女の子が口にした言葉は、犬の名前だった。
捨てられた命が、別の誰かの心を救った。
本当に帰る場所は、荷物の中ではなく、待ってくれる人のそばにあった。