翌朝、駐車場へ向かうと、車体に貼った張り紙が少しだけめくれていた。
そしてその下に、新しい紙が一枚追加されていた。
「申し訳ありません。昨日の件は自分です。警察には行かないでください」
筆跡は震えていた。
私は静かにドライブレコーダーの映像を確認するまでもなく、車の横に立って待った。
しばらくすると、近くのアパートから若い男性が出てきて、こちらに気づくと足を止めた。
「……あの、すみませんでした」
彼は深く頭を下げた。手にはコンビニの袋と、スプレー缶を隠すように握っていた。どうやら昨夜、勢いで落書きした後、張り紙を見て一晩中眠れなかったらしい。
私は淡々と答えた。
「ドライブレコーダーはすでに警察に提出できる状態です」
その一言で、彼の顔が一気に青ざめる。
「ただし」
私は少し間を置いた。
「自首するなら、被害届は出しません」
沈黙が落ちた。車のエンジン音だけが遠くで響いている。
数秒後、彼はゆっくりと頭を下げた。
「……行きます。自分で償います」
その背中を見送りながら、私は車体の落書きを見た。完全には消えていないが、不思議と昨夜ほど腹立たしさはなかった。
張り紙はもう不要だった。