その日は、やけに待たされた。
胃腸内科の病院。
評判が良くて、いつも混んでいる。
予約していても、待つのは普通。
でもその日は、1時間半。
さすがに疲れていた。
やっと名前が呼ばれた。
「山田花子さーん」
私は本を閉じて、立ち上がろうとした。
その時だった。
少し離れた場所にいた女性が、
そのまま診察室に入ろうとした。
「……え?」
一瞬、聞き間違いかと思った。
私はもう一度座った。
すると看護師さんが確認する。
「山田花子さん?」
女性は、迷いなく答えた。
「はい」
その瞬間、全部分かった。
同姓同名。
たまにあるやつ。
看護師さんも少し慌てていた。
「すみません、こちらの方が先なので……」
普通なら、ここで終わる話。
でも、その女性は違った。
「でも、先に返事したの私ですから」
空気が止まった。
……いやいや。
そこじゃないでしょ。
周りもざわついた。
看護師さんが丁寧に説明する。
「受付順でご案内してますので、もう少しお待ちください」
でも、その女性は引かない。
「私が先に呼ばれたんです」
「先に返事したのは私です」
どんどん声が大きくなる。
完全に空気が変わった。
待合室の視線が、一斉に集まる。
正直、恥ずかしかった。
同じ名前ってだけで、
ここまで揉めるのかと。
看護師さんも困っていた。
「カルテがまだ回っていないので……」
でも女性は被せる。
「じゃあ回してくださいよ!」
完全にエキサイトしていた。
その時だった。
奥から別のスタッフが出てきた。
状況を一瞬で把握して、
静かに一言だけ言った。
「受付時間で管理してますので、順番は変わりません」
それだけだった。
でも、強かった。
言い切りだった。
その女性は、一瞬言葉を失った。
さっきまでの勢いが止まる。
さらに追い打ち。
「順番を変えることはできません」
完全に詰んだ。
周りの空気も戻った。
女性は何か言いかけたけど、
結局そのまま黙った。
その後、私は普通に呼ばれて、
診察を受けた。
正直、疲れた。
でも同時に思った。
こういう人って、
“ルール”じゃなくて
“自分が得するか”でしか動いてない。
だから通らないと分かると、急に止まる。
あのまま通ってたら、
きっと毎回やるんだろうなって。
これって、
ただの名前の問題なのか、
それとも“順番守れない人間”の問題なのか。